草間小鳥子 Kotoriko Kusama
詩人・草間小鳥子のWebサイトです。
草間小鳥子 Kotoriko Kusama
詩人。詩集に『源流のある町』(七月堂)、『あの日、水の森で』(土曜美術社出版販売・第71回H氏賞候補)、小詩集『ビオトープ』(資生堂・花椿文庫)がある。アンソロジー『夢三十夜』『ショートフィルムズ』(いずれも学研プラス)にショートショート作品が収録されている。詩と声と音のユニット「Poetic Mica Drops」では詩を担当。
冬の音楽 雪降りのあと 霧が立って 灯火を提げた死者たちがいそぎ足で 水のゆくえを追いかけていった ひとつ知った顔が 立ち止まりこちらを見つめたが 呼びかけに応えてはくれなかった 霧が晴れる まっさらな空気に音楽がこぼれる かたく目をつむった地表が 土にかくまった生きもののため おだやかに歌っているのだ あめゆきふらせ あめめゆゆきふららせ 薄雪はささやいて溶け 細く長い息で 汚れた地層をくぐり抜ける 凍った餅花を振り 遠ざかる薄着の子ども 無言の家々 どこまでも耳をすます わたしにやさしい声はなくとも ひとつ凧が空に迷い 地上のしずけさを見下ろしていた